こんにちは、星空スペース店長です。
最近、いろいろなことが重なりすぎてしまい、寝る間も惜しむダイハードな日々が続いておりました。
まあ、年に数回こういう“重なる”タイミング”というのはあるもの。
そこはひたすら我慢しながら一歩一歩確実に着実に前進あるのみです。
で、ようやく長いトンネルを脱したなと思ったら、「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」さながら、今週に続いた酷寒の天候にあえなく我が体のほうがダウン。
どうにも僕は体調不良の際に頭から来る性質でして、幾日か頭痛に苦しめられました。
脳内の海馬はローギアのままいくらアクセルを噴かそうとしてもヘドロのような倦怠感に襲われ、シナプスはうまく結合せずに言葉は脈略無く出て行くばかり。
いままでできたことができないというときほど、焦燥感とイライラは募るわけで。それがなおさら身体の回復に悪影響を及ぼします。
そんなときに、ふとしたことから思い出して読んでみたのが、夏目漱石の小説『草枕』でした。(青空文庫で無料で読むことができますので、ぜひこの機会に!)
名言集にも必ず出てくるような夏目漱石の名文ですが、この草枕の冒頭を少しだけ引用してみましょう。とかく人の世がすみにくいばかり強調される漱石ですが、後ろはこんな風に続くんですよ。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
「文学などなんの役に立つのか?」と言ったことをときどきいう人もいますが、僕にとってこの夏目漱石の「草枕」が存在すること自体がなんという「救い」であることか。
いわば精神の薬です。風邪を引いて熱が出てきたときにあてる氷嚢のような存在です。
もやもやしていた心の悪玉細胞が、この小説を読むだけですっと消えてしまいました。
いや、正しくは消えたというよりも、悪玉細胞も自分の中の大事な細胞の一部として受け入れることができたという感じの方がしっくりきます。「和をもって尊しとなせ」の精神です。
それぞれの救いとして、文学がなにがしかの役割を担っていることを確信し再確認した瞬間でした。
ところで余談になりますが、この夏目漱石の名作「草枕」には実は房総を旅したときのことが出てきます。
館山から銚子まで行脚した旅程の中には、「上総」と表現されて具体的な地名は出ていないものの、いすみの国も通ったはず。
このあたりのことは、漱石は「木屑録(ぼくせつろく)」という旅行記にまとめ、さらに漱石の盟友である正岡子規は房総一人旅を「隠れ蓑日記」にまとめ、それをお互いに評論しあった歴史があります。
いつか、この二作品を携えながら、僕も房総を行脚旅行し、その足跡をたどってみたいなどと夢想していたりします。
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毎度のコトながら余談が長くなりましたが、今日は3月10日の営業日。
星空スペースは昨年9月9日に正式オープンしましたので、ちょうど半年が経った計算になります。
祝開業0.5周年というわけです。
いやあ、半年などといってもあっという間ですが、どうにかこうにか、おかげさまでお店も続けられるようになっています。
まずは、営業を支えてくれるお客様と、いつも美味しい素材を提供してくれる仕入先の皆様に感謝したいと思います。
Thank you baby!Thank you baby!(ゴダイゴの間違った使い方)
ちなみに、先日妻のほうがブログにあげておりましたが、星空の家のほうはまもなく5周年を迎えようとしております。
すこしずつ、地道に理想を追求していく、なかなか思うように進まないこともありますが、ふとした拍子にこうして過去の記録を持ち出してくると、何気にがんばってきたなあと清清しい達成感を感じるものです。
星空スペースの看板商品の一つとして、ハンバーガーを提供しています。
コンセプトは「ファーストフードの代名詞であるハンバーガーをあえてゆっくり出す」そんな商品ですが、まあまあ人気です。あえてゆっくりなのは、焼くのに時間かかるんです。
で、気になって今までにどれくらいこのハンバーガーのパテであるハンバーグを仕込んできたのか、調理記録をたどって数えてみました。
そしたら、いままでにだいたい420個のハンバーグを仕込んできたがわかりました。
料理でもなんでも同じですが、何でもある程度の数をこなさないと見えてこないものがあると思っていて、星空スペースではあえてメニューを固定化し、修練を積むことを今は優先しています。日替わりランチとかあったらいいねとかよく言われますが。
自動車やソフトウェアなどがそうですが、ある程度の商品レベルが出来上がったら、後はその細部の完成度を高めていくことにひたすら情熱をそそぐことが大事です。
ハンバーガーも同じ、いつもと同じ仕込み作業・調理の中に本当に少しずつですが、微妙な変化・変更を加えています。
そうしてマイナーチェンジを繰り返して、日々バージョンをあげていく。
その作業の中で、作り手のほうがどんどんスキルとノウハウが上がっていきます。
そして、マイナーチェンジの繰り返しを続けることによって、大きな構造上の問題にぶち当たり、その壁を越えるためには小手先の変更ではダメだ、もっと革新的に仕組みを変える必要がある感じたときこそ、飛躍的成長の大きなチャンスが到来した時と言えると思います。
この細部を詰めていく作業をせずに、大きな仕掛けを作ろうとするとベースが出来ていませんから、砂上の楼閣になりやすいなんてことは社会人やっていてたくさん見てきました。
だからこれからも、少しずつですが、“良くしていく”という作業を続けられればいいなあと思っている次第です。
本当の問題であり、一番気をつけなくてはならないのは、探究心が冷め、もうここで十分がんばったと、向上のステップを自ら止めてしまうこと。
だからそうならないように、日々外の景色を見て、よそ様の努力を勉強し、人の話に聞き耳を立てるなんてことが大事ですね。
星空スペースもやっと半年経っただけですが、そうした“続けていく”ための努力の方法論を少しずつ固めていきたいと思っています。
あ、一周年の暁にはラーメンをやります!(今までの話を台無しにする神の一手)
(良)