星空スペース

飲食業はなぜブラック化するのか

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こんにちは、星空スペース店長です。

最近、フェースブックなんかで話題になっている記事を読みまして、ちょっといろいろ思うところを書いてみようと思いました。

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話題になっていた記事

上記リンク先の記事で話題になっているのが、飲食店の厨房における言葉の暴力(怒鳴りあい)や、ホンモノのフィジカルな暴力行為(いわゆる体罰)です。そして、そういう職場からは決して本当に美味しい料理は生まれないという土井さんという方の言葉に賞賛が集まっているという話でした。

僕もなんだかんだ今までにアルバイトを確実に30くらい以上はやってきておりまして、中でも飲食業にはお世話になったもんです。だって、てっとり早く稼ぐには飲食業が一番ですから。

もちろんパートタイムですが、主に厨房で今までに6~7年はやってきたかなぁ。

思い返してみると、どこもかしこもブラックだったなあ、としみじみ思います(笑)。

高校時代3年間は地元の昔かたぎな回転寿司屋で働きましたし、学生時分もブラック企業の代名詞とでも言える某居酒屋チェーンや仕出し屋・イベントスタッフみたいなものもやりました。どれもこれもなかなか大変でしたが、身体だけは頑健なもんで僕はわりとどんな職場にも適応できたほうでしたね。

あと、料理人というのは「むかしはツッパッてましたー!」っていう人がかなり多い業界で、もちろんそういうところは体育会系のノリで、怒鳴る、時には叩くなんていうことは日常茶飯事だったりします。特に火の近くにいると人間気が短くなるようで、ケンカなんかもバーゲンセール状態で売ったり買ったりの世界があったりしますから(これはさすがに職場によるでしょうけど)、そういうのに慣れていないバイトスタッフが泣かされているのを見たのも一度や二度ではありません。(僕もずいぶんからまれましたが、当時の僕は喧嘩大好き人間だったのでむしろ歓迎♪)

 

そして、一番ブラックという意味では思い出に強く残っているのが、某巨大レストランでの厨房時代でした。

学生時代、池袋にあったそのレストランは、「総料理長」なんていう肩書きを持っている人がいるくらいの大きな所帯のレストランで立地も良いところにあるからまあまあ有名で、たくさんの料理人がそこでは働いておりました。

ところが、まあこの現場というのがすさまじくブラックでブラックで、今思い返してもちょっと冷や汗が出るほどです。

時給がよかったものですから、次々にバイトは入ってくるものの、たいがいの人は一日やれば次の日に来なくなり、鈍感かあるいは我慢強い人でも1週間持てば良いほうでした。そのくらい、秒刻みでやることがあるような忙しい職場で、しかもほとんど休みがなくぶっ続けで働かされるのです。

僕は昔から料理は好きだったもので、あるいは少しは要領が良かったのかもしれませんが、そんななかでなぜかずっとアルバイトをやっていまして、簡単に職場を抜けることが許されない正社員的な方々(僕はこの人たちは奴隷だと思っていた)に混じって料理をひたすら作っていました。

怒号飛び交う文字通り殺人的な忙しさの中でしたが、まあ慣れれば、地獄の環境でも人間適応できるものです。

最初は皿洗いや簡単な仕込みから始まって、なにせ次々にバイトがやめスタッフが転職していくものですから、僕は上の方から重宝されトントン拍子で格上げされ、次々にやることの範囲が広くなっていきました。そして、終いには火番を任されることに。

うちの職場では「火番」と呼ばれていましたが、他にも「コンロ前」とか呼ばれる要するに火で最後の仕上げをするポジションはレストランでもランクの高いシェフがやる作業です。料理長やリーダー長に混じって、なぜか僕もひたすら料理し続ける破目にに陥り、あの時はそれこそ必死で鍋を振るっていたものでした。今思えば、星空スペースの調理でそのときの経験はだいぶ役に立っているので、人生何が吉に転ぶかわからないものですよ(笑)。

そんな日々を送っていたある日、僕は総料理長から業後呼び出されました。

なんだろうとどきどきしながら行ってみると、

「お前、うちで面倒見てやるから料理人やってみないか?」と誘われたのです。つまり正社員として正式なコックにならないかという誘いでした。

あのときの、絶望的な僕の半笑いと、僕はNOがはっきり言える日本人のため二つ返事で「無理っす」といったときのこと、なんか今でもめっちゃ良く覚えています。いやまあ、大学卒業後就職することも決まっていたので、言い訳ももちろんしましたけどね。

しかし、料理人になるという選択肢は、あんまりにも職場がブラック過ぎて、地球が崩壊してもなるまいと思っていたくらいでした。バイトだから時間が決まっていてかつ時給が高いんであって、正社員の人々は一日中働かされ、本当に奴隷のようにこき使われていたのです。(なんで、日本ではバイトは比較的わがまま許されるのに、正社員の人たちはあんなに苛烈に扱われるんでしょうね。)

そんな僕が、今また星空スペースの店長として、日夜料理をしているんですから、本当に人生不思議、人生いろいろです。

 

で、今は妻と二人、自営業的に飲食業をやっているわけですが、自営業だから「ブラックじゃない」と言えるかといったら、ぜんぜんそんなことは無いんですよね。

このあたり、幸せな働き方を考える上で、「飲食業はブラック」というこの現状をどう変えていくか、それが僕も悩むところです。

将来、だれか人を入れて働いてもらうかもしれませんし、今の自分の働き方が良いともあまり思えません。

このブラック問題の第一の要因が、飲食業における労働時間の長さでしょうね。

これが、飲食業の問題の根幹だと思います。

 

実際にお客さんをお店に入れる時間を「営業時間」としましょう。

そして、その「営業時間」の前を「準備時間」、営業時間の後を「片付け時間」とすると、

飲食店の労働時間=「準備時間」+「営業時間」+「片付け時間」

の合計となります。

 

特に、準備時間の仕入れと仕込みが厄介で、料理に深みを出そうとしたり、あるいは量的・バリエーション的にたくさんつくろうとするとどうしても仕入れと仕込みに時間がかかります。こだわればこだわるほど、準備時間は長く伸びていってしまうのです。

星空スペースでも、特にカレー料理の仕込みは鶏がらを煮込むところからはじめているもので、カレーが完成するまでに6時間くらい要します。カレーを煮込んでいる間に他の料理の仕込みもやるんで、仕込みの時間も気が抜けません。

そして、営業時間がきて、お客さんが来てくれたら料理をお出しするまで、料理人というのはアドレナリンが出まくっています。

「火」というのは、一瞬のミスによって料理を全部ダメにする非常に怖い存在であり、さらには火力によるカロリー熱の放出が人間の心にも火をつけるため、緊張しながら料理しているとどうしても汗をかきます。

飲食業というのは水商売なので、お客さんは来たり来なかったりで波があり、常にある一定程度のストレスを人にもたらします。

そして、やっと営業時間が終わったと思ったら、どっと疲労感を人に与えるのです。

この疲労感を感じているところに、片付け時間が来ますから、当然生産性が低くなります。

つまりだらだらやってしまい、余計時間がかかることになります。

こうしてトータルの労働時間はどんどん長くなっていってしまうのです。

 

実際のところ、日本の飲食業の現場では長時間労働が当たり前のように蔓延しているんだと思います。(このあたり、海外とかはどうなんだろうな?)

そして、それが飲食業の必然だと思われてしまっているところにも、問題を根深くしているところがありますね。

このあたり、どうしたら事態を改善できるかというと、ただ単に仕事を効率化させるだけにとどまらず、お店のあり方と自分たちの働き方の両方から「意識」のところから変えていかなくてはならないようにも思います。

仕込みにこだわらない料理人は二流以下だと思いますし、営業時間を短くするためには回転率か客単価をあげるしかないわけで、そうすると仕込みをどうするかという問題がぐるぐるループするんですよね。

「飲食業における幸せな働き方とは?」そんな問いに対する答えもちょっとずつ探していきたいと思っているところです。

(良)